移籍します

東京都の病院にUAEセンターが設立される運びとなり、センター長を拝命いたしました。

5月10日より新病院にて診療をいたします。

葉山ハートセンターの外来は4月一杯を持ちまして終了いたします。

尚、新病院での診療等に関しても詳細が決まり次第、報告いたします。

最後の公開医学講座

2003年に葉山ハートセンターに入職して以来、医学公開講座を欠かさず行ってきました。
平均して一月に2回、多いときは3回したこともあります。丸7年以上継続して行ってきましたので、公開講座で使用するスライドを一瞥しただけで内容を諳んじるまでになりました。
2時間以内と決められた時間内で70枚あまりのスライドを使用して、よどみなく話さなくてはなりません。しかも相手は専門家ではなく、一般の方々です。
これは自分の勉強にもなりました。一般の方々からの質問にもわかりやすく答えなくてはならないために、掘り下げて勉強することが必要になります。

たとえば、卵巣機能です。 UAEの合併症の一つに卵巣機能低下が上げられます。 45歳以上の5-10%に起こるといられていますが、要するに閉経に近づくというわけです。

卵巣機能をどう評価するか。

基礎体温をつけることが正確に卵巣機能を把握できますが、現実的にUAE後の患者さんに基礎体温をつけさせるということは不可能です。

では女性ホルモンであるエストロゲンを測定するのはどうかというと、日内変動もあるし、性周期によって大きく違ってきます。

卵胞刺激ホルモンFSHが日内変動も大きくなく指標としていいだろうということになっています。

専門家相手なら、FSHが上昇する、、と言っただけで話しが通じますが、一般の方々はそうはいきません。

継続は力なりとはよく言ったもので丸7年医学公開講座ができたことは感謝せねばなりませんね。

本日の公開講座が葉山ハートセンター在職中最後の公開講座となります。

Uterine Fibroid Embolization

CIRSEの子宮動脈塞栓術の紹介サイトです。

CIRSE

Cardiovascular and Interventional Radiological Society of Europe
という長い名前の学会です。
ヨーロッパ心臓血管・IVR学会が日本語訳になりますね。
2000年にUAEに関して発表した学会です。

http://www.uterinefibroids.eu/

子宮動脈塞栓ですからUterine Artery Embolization なのですが、子宮筋腫を塞栓するので
Uterine Fibroid Embolization というわけですね。

筋腫を英語でFibroidともいいます。Myoma ,Leiomyomaというのが医学英語ですが、Fibroidが判りやすいんでしょうか。

9カ国語で説明されているようです。 日本語はありませんね。

子宮腺筋症に対するUAE(5)

5月に行われる第39回日本IVR学会総会に演題を応募したところ採択されましたので、抄録を載せておきます。

日本医学放射線学会での演題も子宮腺筋症に対するUAEですが、子宮腺筋症は子宮筋腫を合併することが多く、合併した筋腫への効果も成績に反映してしまうのではないかという疑問から、今回は純粋に子宮腺筋症だけを対象とした治療成績を検討しました。

   子宮腺筋症に対するポンピング法ゼラチンスポンジ使用によるUAE

【目的】ポンピング法にて作成したゼラチンスポンジを塞栓物質とした子宮腺筋症に対するUAEの治療効果を検討。

【方法】2003年から2009年まで当院にてUAEが施行された子宮腺筋症82例のうち筋腫合併を除く37症例を対象。塞栓物質は充分にポンピングしたGelfoamのみ。塞栓の程度はDSA上子宮動脈水平枝が描出されなくなるまでとした。UAE施行時の年齢は29-52歳(平均42.9歳)、経過観察1-71ヶ月(平均20.8ヶ月)。UAE前後のMRI画像、臨床症状、FSH、CA125を検討。

【成績】両側子宮動脈塞栓36例、両側および右卵巣動脈付加塞栓1例であった。全例でUAE後48時間以内の退院が可能であった。UAE後1ヶ月の造影MRIにて腺筋症病変の梗塞領域を検討したところ、完全梗塞23例(62.2%)、50-99%梗塞9例(24.3%)、50%未満梗塞5例(13.5%)であった。全例でUAE後から月経痛、過多月経等の臨床症状は改善されたが経過観察中5例で症状再燃が認められ、症状再燃までの期間は3-36ヶ月(平均15.6ヶ月)であった。再治療が4例(ATH:1例、GnRHa:3例)に施行された。UAE後の無月経は6例(一過性:2例、閉経:3例、子宮性:1例)でUAE施行時年齢はいずれも45歳以上であった。CA125の低下は梗塞領域とよく相関した。

【結論】ポンピング法ゼラチンスポンジによるUAEは子宮腺筋症に対して有用で安全な治療法と思われた。

結論から言うと、子宮腺筋症に対するUAEは筋腫合併の場合もそうでない場合も成績はほぼ同等であるということです。それから筋腫に対するUAEの場合よりも塞栓物質をやや細かくし、強めに塞栓しているにもかかわらず、卵巣機能が有意に低下するということはなく、むしろ卵巣機能低下は年齢が大きな要因であるということです。

カテーテルと弓

血管カテーテルによる造影法や治療法の教科書を見ると手技のやり方、注意点、合併症は書かれていますが、カテーテルそのものの操作法を掘り下げて書いた教科書は見当たりません。(私が知らないだけであるのかもしれませんが。)

実際カテーテルは基本的に“押す”“引く”“時計回りに回す”“反時計回りに回す”の4つしかなく、この組み合わせ(たとえば時計回りに回しながら引く)から成っています。
とても単純ですね。

でも血管は必ずしもまっすぐでなく、血管壁がでこぼこのこともあるし血管そのものが弾力性がある場合もあるし、弾力性がなく硬いこともあります。
UAEをしていると女性は45歳を過ぎたあたりから血管に屈曲や蛇行が多くなることに気がつきます。

ところでヴァイオリニストのヤッシャ・ハイフェッツはこう言っています。

「フロッグで弓を返す時、弓が腕の延長であり、手首の一部であるという感じを持たねばならない。」(私の演奏法 名演奏家と指導者へのインタヴュー第1巻:サミュエル・アプルバウム、セーダ・アプルバウム著/野田 彰 訳)

ハイフェッツ自身カテーテルを持ったことはないと思いますが、“弓”を“カテーテル”に置き換えることができると思います。もちろんフロッグで弓を返す時だけではなく、カテーテルを持っている時はいつでもですが。

案外、医学とは関係のないところでカテーテル操作法を掘り下げた教科書があったようです。

もちろん私の運弓はハイフェッツの運弓にははるかに及ばないことを付け加えておきます。

妊娠・出産希望者にUAEは適しているのか?

妊娠・出産を希望することを挙児希望といいます。女性であれば多かれ少なかれ希望する時期はあるかあったか、将来あるといえるでしょう。
UAEによって筋腫や腺筋症が小さくなったり、過多月経や月経痛が消失し、妊娠しやすくなればとても喜ばしいことです。
分娩時における大量子宮出血に対してUAEを行った場合、その後妊娠・出産があることは経験的に知られています。
筋腫・腺筋症に対するUAE後の妊娠・出産もめずらしくありません。
ポーランドのある大学病院ではUAE症例が豊富で、その後の出産も多く、UAE学級と呼べるような子供たちがいっぱいいることが学会で報告されています。
ところがアメリカでは産婦人科学会が、挙児希望者にUAEは原則禁忌なる発表をしました。UAE後の妊娠・出産が安全であるというエビデンス(確証)はまだ充分でないという理由からです。
確かにUAE後に妊娠・出産に関して不利と思える状況は起こりえます。以下の3点です

1. 卵巣機能低下
2. 子宮内膜癒着(アッシャーマン症候群)
3. 子宮内膜の部分的欠損

1.は45歳以上の5-10%に起こりえます。2.は数% 3.も数%
2のアッシャーマン症候群が起きると月経は来なくなるかあってもほんとに少量です。妊娠しにくくなります(しないというわけではありません)。3の内膜の部分的欠損は、仮に妊娠した場合、欠損部に癒着胎盤が起こり得、出産時の大量出血をきたす場合があるということです。3が確認されたら内膜が再生されるまで避妊をしなくてはなりません。

私は挙児希望の場合、可能であれば核出術を薦めています。

でも現実はそう簡単でなく、患者さんの中には過去2回の開腹核出術と2回の子宮鏡下核出術、あわせて4回もの手術を経験し再発、さすがにもう手術は嫌だという方もいるのです。

臨床の現場は教科書どおりには行きませんね。

世界中で行われているUAE

世界中で行われていると書くと、世界は200カ国余りあるのでどの国で行われていてどの国で行われていないのかを知っているのかと怒られてしまいそうですが、先進国といわれている国ではまず行われているようです。これは医学雑誌を見るとわかることなのです。
ロシア、ポーランド、ベラルーシ、イラン、トルコでも行われています。

以前タイ、バンコクの大学の先生がUAEを見学しに来られた事がありましたがその時はタイではまだUAEが行われていないと言っていました。でも今では行われています。
料金は日本と同じで40万円から50万円ほどです。

国によって医療制度が違うのでUAEに対する支払いも違うようです。

オーストラリアではUAEは保険収載されており、病院窓口での支払いはないそうです。

日本でもUAEが保険収載されれば4,50万円の3割負担ですから窓口で14,5万円を支払えばよく、高額医療になるので後に7,8万円が還付されるということになりますね。
そうなればUAE後に再発しても再UAEを選択しやすくなります。

アメリカでは1万ドルから4万ドルと差があるようですが、保険収載されており個人が加入している民間の保険会社が支払う仕組みになっているようです。ただし子宮筋腫に限ってのことであり、腺筋症は該当しないようです。つまり保険会社はUAEの治療効果が筋腫と腺筋症とでは違うということを理解しているということになります。

筋腫の場合は支払う=筋腫に対してはきわめて有効 ということであり、腺筋症に対して支払わないのは筋腫ほどは効果がないと理解しているということなんですね。

保険会社は患者さんに「子宮筋腫ならUAEの施術料を支払いますが、腺筋症は支払いませんよ。」ということです。腺筋症でUAEを希望した場合、アメリカでは保険会社が支払わないので自分で1万ドルから4万ドルを支払わなくてはならないということですね。これならば日本に来てUAEを受けたほうが安くすむので、実際に日本にやってきてUAEを受けた方が何人かおられます。

マダガスカルから見学に来られた先生は私が使用するカテーテルにとても興味を持たれ、マダガスカルに帰国したらぜひ同じカテーテルでUAEを行いたいといっておられました。その先生はフランス人で、あとでマダガスカルを調べてみたらかつてはフランスの植民地だったんですね。

その先生に、「子宮筋腫のUAEはフランス発だから何も私のカテーテルを使わなくてもフランス式でいいじゃない?」と言ったら、「いや、Made in Japan がお気に入りでね。」とおどけていました。

卵巣動脈塞栓で卵巣機能は低下するのか?

UAEの合併症の一つに卵巣機能低下があげられます。平たく言うと閉経状態になるということです。卵巣は主として卵巣動脈から血流を受けますが子宮動脈と卵巣動脈とは吻合、つまりネットワークがあるため子宮動脈を塞栓することにより卵巣への血流も低下して機能低下をきたす場合がありえるということです。内外の報告によると45歳以上でUAEを受けた場合、10%程度がそのまま閉経になるか閉経が早まるといわれており、44歳以下ならばその可能性は1%以下ということです。

では卵巣動脈を塞栓した場合はどうでしょうか。
実は、頻度は低いのですが卵巣動脈から血流を受ける子宮筋腫があります。
この場合、血流を供給する卵巣動脈を塞栓しなければ筋腫は生き残ってしまうことになります。でもUAEに卵巣動脈塞栓を加える事に関しては議論があります。
なぜならUAEはあくまで子宮動脈塞栓術であって卵巣動脈塞栓術ではないのです。卵巣動脈を塞栓するということは卵巣への栄養源を断つことですから機能が失われてしまう恐れがあります。

問題点は2つあります。

1.子宮動脈塞栓+卵巣動脈塞栓により卵巣機能が(子宮動脈塞栓術よりも)有意に低下するのではないか?

2.子宮動脈塞栓術に卵巣動脈塞栓術が加わるため手技に要する時間が延長し、放射線被曝が増えてしまうのではないか?

葉山ハートセンターでUAEを施行した際に卵巣動脈も塞栓した症例を検討してみました。

14症例ありそのうち1例は2回の卵巣動脈塞栓を行っています。
UAE施行時の平均年齢は43.5歳でした。手技に要した透視時間は平均で16分(6.1-30.6)でした。

結論から言うとUAE後そのまま閉経になった人はいませんでした。
また米国のある大学病院のUAEの平均透視時間が約23分ということから考えると卵巣動脈塞栓を加えても平均16分なら許されると思います。
(もし、許さないという患者さんやお医者さんがいらっしゃいましたら私の元でのUAEはお勧めしません。)
46歳の方でUAE1ヵ月後に一過性にFSHが上昇(それでも22.8)しましたが3ヵ月後には3.9に戻っています。

卵巣動脈を塞栓しても直ちに卵巣機能低下に結びつかない理由の一つに、卵巣は左右にあり、UAE時に左右の卵巣動脈を塞栓することはないからと考えられています。

では左右の卵巣動脈を塞栓した場合はどうでしょうか?
私は1例だけ経験があるのです。
UAE後2年間経過観察をしましたがFSHの上昇はまったく認めず、更年期症状もきたしませんでした。機会があれば研究会か学会に発表しようかと思っています。

UAE後の腹腔鏡下筋腫核出術(2)

封筒を開けると患者さんの名前が記してありました。3度のUAEを施行した患者さんです。
何か手術中に不都合なことでも起きたのかと心配しましたが、お返事はいささか拍子抜けするものでした。手術時間も短く出血も少なかったのです。また病理の結果も良性の子宮平滑筋腫ということでした。すぐに執刀医の先生に電話をしました。関心があったことは

1.良性の平滑筋腫だったのか?

2.UAEのために筋腫が核出しにくかったのではないか?

の2点です。

1点目の「良性の平滑筋腫だったのか」は返信で解決しています。

問題は2点目の(腹腔鏡下にて)核出しにくかったのでは?です

執刀医の先生のお話では、通常の筋腫の核出術とかわりがないが、しいて言えば少し周囲組織からくり抜きにくい感があったも手術がしにくいというほどでもない。むしろ通常の手術より出血が少なかった。ということでした。

UAE後の腹腔鏡下筋腫核出術(1)

大きな筋層内筋腫の患者さんのUAEの経験です。日本在住の外国人の方でどうしても開腹手術を受けたくない、かといって腹腔鏡下では難しいといわれた方でした。
UAEにより筋腫の大部分が梗塞になり結果かなり縮小し満足されていましたが2年ほどして再増大し始めたため再UAEをすることになりました。
UAEは原則左右の子宮動脈を塞栓します。初回UAEでは左右の子宮動脈を塞栓しましたが、再UAE時には右の子宮動脈は閉塞し、左の子宮動脈と右の卵巣動脈から子宮筋腫への血流が認められたため、左子宮動脈と右卵巣動脈を塞栓しました。筋腫は完全梗塞となり1年後にはかなり小さくなりました。
卵巣動脈を塞栓すると卵巣の機能が落ちるのではないかと危惧されるのですが、月経は正常で卵巣を刺激するホルモンであるFSHも上昇は認められませんでした。
その後も経過を見ていましたがMRIで造影をすると筋腫の内部がわずかに造影効果が認められるようになりました。腹腔鏡でも充分に核出できると判断したので患者さんにそのように伝え、関連病院に依頼をしたところ手術待ちが1年ほどだというのです。
また信頼できる施設へ紹介状を持たせたのですが、そこでも1年待たなくてはならないということでした。
結局患者さんの強い希望でもう一度UAEをすることになりました。
再UAEは他院で行われたものも含めて経験がありましたが3度というのは初めてでした。
血管造影では子宮への血流は左子宮動脈と右卵巣動脈でしたのでそれぞれ塞栓しました。
UAE後の造影MRIでは筋腫内部に認められたわずかな造影効果はまったく認められなくなりました。この患者さんは実によく勉強している方で、血管塞栓をしても腫瘍が新たに栄養血管を作るようになればまた増大するということをよく知っていました。「あなたの筋腫はUAEに対して抵抗性がある筋腫かもしれない。血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を産生するような筋腫かもしれない。すぐにというわけではないが筋腫は取ったほうがいいかもしれません。」とお話していました。しばらくしてその患者さんは以前に持たせた紹介状を持って腹腔鏡下核出術を受けたのでした。その施設から術中所見と紹介状に対する返事のお手紙が届きました。

子宮筋腫に対するUAE

子宮筋腫に対するUAEが報告されたのは1995年のRavinaによるLancet誌です。
では子宮筋腫に対してUAEの治療効果はどの程度なのでしょうか。
私は1998年から2006年までに施行した約900症例を集計してみました。約90%の症例にて筋腫がすべて完全梗塞になっていました。外来をしていると判るのですが、6-7割の患者さんが多発性子宮筋腫です。
筋腫の数が多くなると中にはUAE後に完全梗塞を免れるものが出てきます。
それでもUAEによって筋腫による症状、つまり過多月経、月経痛、圧迫症状はきわめて高率に緩和され、5年症状コントロールは90%以上でした。
しかし、UAEにてまったくといっていいほど塞栓されなかった例も経験しています。
2度のUAEを行なったにもかかわらずほとんど塞栓されなかった例がありました。
開腹手術を行ないましたが、子宮筋腫ではなく、靭帯内筋腫でした。
つまりこの場合は筋腫は子宮から発生したものではなく、子宮を支える靭帯から発生したものでした。
UAE前のMRIではしょう膜下筋腫の診断でしたが、実際におなかを開けてみると違ったというわけです。

子宮腺筋症に対するUAE(4)

子宮腺筋症にUAEが有効であるといっても不完全梗塞の患者さんが40%でそのうち20%は再治療が必要となればその患者さんにとってはあまりうれしくありません。40%のうち20%ですから8%ということになりますが、その患者さんにとっては100%なのですから。

そこで不完全梗塞の場合はUAE後どの位の期間で症状が再発してくるのかを検討しました。

2008年に開催された子宮筋腫塞栓療法研究会で発表しましたが、UAEを行なった76症例では13症例(17%)が何らかの症状再発がありそのうち6症例はたまに痛み止めを飲めばいい程度の月経痛でした。そういった軽度の症状も含めると最短で3ヵ月後、最長で43ヵ月後ということでした。平均すると20.8ヶ月、つまり1年と8ヶ月でした。

では再治療を要した7症例に関してどうだったのでしょう。

再治療までの期間を調べたところ、最短で3ヵ月後にホルモン療法が開始されています。
最長では38ヵ月後に開腹子宮全摘となっていました。平均すると14.4ヶ月、つまり1年と2ヶ月で再治療を受けることになっていました。再治療の内訳はホルモン療法、もしくは子宮全摘でした。

子宮腺筋症に対するUAEの難しいところは病変部が完全梗塞になるかならないかが術前に判断できないという点にあります。

個人的には、「あれだけしっかりと塞栓した」のに不完全梗塞になったり「もう少ししっかり塞栓すればよかったかな」と思ったにもかかわらず、完全に梗塞になっていたりすることがあるのです。

UAEは本当に難しいと思います。 でもやりがいもありますね。

子宮腺筋症に対するUAE(3)

自分の経験の他、内外の文献、UAEを行っている医師らの情報交換等から塞栓物質をやや小さくし、強く塞栓することによって腺筋症病変部の梗塞を起こすことができ、より長期にわたって症状を緩和させることが可能となることがわかってきました。
2010年4月に行なわれる、日本医学放射線学会総会に演題を応募したところ採択されましたので、抄録を載せておきます。

子宮腺筋症に対するポンピング法ゼラチンスポンジによるUAE


【目的】ポンピング法によって作製されたGelfoamを塞栓物質とした子宮腺筋症に対する子宮動脈塞栓術(UAE)の治療効果を検討。
【対象・方法】2003年4月~2009年9月までに連続してUAEを施行した子宮腺筋症76例を検討。UAE施行時29-54(平均43.8)歳。筋腫合併43例(56.6%)。検討項目:MRI、CA125、FSH、臨床症状。経過観察期間:1-77(平均27.3)ヶ月。
塞栓血管は両側子宮動脈74例、右子宮動脈のみ1例(左子宮動脈欠損のため)、両側子宮動脈+右卵巣動脈1例。十分にポンピングしたGelfoamのみを使用し、DSA上、子宮動脈水平枝が完全に消失するまで塞栓。全例にUAE前後のMRIを施行し、UAE後1ヶ月の造影MRIで腺筋症病変部の梗塞領域によりA群(完全梗塞)、B群(不完全であるが梗塞領域は50%以上)、C群(不完全で梗塞領域は50%未満、もしくは梗塞領域を認めない)に分類。
【結果】A群47例(47/76=61.8%)B群15例(15/76=19.7%)C群14例(14/76=18.4%)を得た。13症例(17.1%)に経過観察中に何らかの症状再燃が認められ、再燃までの期間はUAE後3~43(平均20.8)ヶ月。再治療は8例(10.5%:ATH3例、GnRHa5例)で再治療率はA、B、C群でそれぞれ4.3%(2/47)、20%(3/15)、21.4%(3/14)。
UAE後の永久的無月経は10例でUAE施行時いずれも45歳以上。A,B,C群の順にCA125の正常化が著明。44歳以下(33例)ではUAE後1年以内のFSHの一過性上昇を1例にのみ認めた。
【結論】ポンピング法ゼラチンスポンジによるUAEは子宮腺筋症治療の選択肢の一つになり得る。

つまりいままでの経験から子宮腺筋症の場合UAEによって60%の患者さんは病変部の完全梗塞が起き、再治療を要したのはわずか4%であったのに対し、不完全梗塞の場合は20%が再治療を要したということです。
しかし、逆に言うと不完全梗塞になった場合でも80%の患者さんは再治療が不要ということであれば、UAEという治療を腺筋症治療のオプションの一つとしてもよいのではないかということです。
もちろん経過観察期間が最長6年程度ですのでより長期にわたった場合は再発が出てくるとは思いますが、腺筋症に悩まされる年齢が平均40歳代ということを考慮すると十分に治療のオプションとなりえると思います。

子宮腺筋症に対するUAE(2)

そこで子宮筋腫の場合も含めてUAEの効果を学会で発表することにしました。
CIRSE(CardioVascular&Interventional Radiolical Society of Europe)という長い名前のヨーロッパの学会です。 以下のような内容を発表しました。2000年9月のことでした。

【子宮筋腫12例、子宮腺筋症2例、筋腫と腺筋症の合併1例に対してUAEを施行。
画像による治療効果はMRIにてUAE後1日、3,6,12ヶ月で判定。
UAE後第1回目の月経から月経困難等の症状は緩和。筋腫はUAE後3ヶ月で平均57%の縮小率を示したが腺筋症の場合は縮小はわずかであった。
子宮筋腫の1例にUAE後5日目に筋腫分娩をきたした。片側塞栓の1例にUAE後6ヶ月で症状再発のため再UAE施行。

短期的にはUAEは子宮筋腫、子宮腺筋症に対して有効であった。 腺筋症に対しては縮小率は期待はずれであった。

UAEの治療効果を結論つけるにはより長期的な経過観察を要するであろう。特に腺筋症の場合にはそうである。】

オランダのマーストリヒトという都市での学会で、つたない英語で喋りました。会場からは、筋腫の場合は良好な縮小率だが、腺筋症の場合はそうではないということから、大きな腺筋症で頻尿などの圧迫症状はあまり改善されないということでいいのか? という質問が来ました。
残念ながらそういうことだ。 と返答しました。

もちろん現在はそうではありません。

子宮腺筋症に対するUAE(1)

子宮腺筋症という病気があります。 子宮内膜症が子宮の筋層内に起こる病態と考えられていますが、子宮内膜症とは別の病気という考え方もあるようです。
問題なのは正常の子宮筋層と腺筋症との病変部の境界がはっきりしないこともあり腺筋症病変部だけを手術的に取り除くことが困難であることが少なくないということです。
もしUAEがこの子宮腺筋症に対して有効であれば患者さんにとって大きな福音となります。
私は1998年に子宮筋腫に対するUAEに取り組み、腺筋症に対してUAEを行ったのは1999年でした。
子宮筋腫と同じように塞栓しましたが、はじめの1年くらいは症状が軽くなって良かったのですが、1年を過ぎるとだんだんと元通りになっていきました。

UAE :Uterine Artery Embolization:子宮動脈塞栓術

脚の付け根にある大腿動脈からカテーテルという細い管を挿入して、エックス線透視を用い、子宮動脈まで挿入します。カテーテルは外径が1.3mmです。
そこから塞栓物質という細かい粒子を注入します。塞栓物質は血流にのって子宮筋腫・子宮腺筋症を栄養する動脈を塞ぎます。
左右の子宮動脈にこの操作を行ったらカテーテルを抜いて終了です。
エックス線被曝を伴いますので短時間で終了させることが重要です。この手技は通常10-20分で終了させることができます。UAE後には一過性の子宮虚血による下腹部痛がおきますが、鎮痛剤にて制御できます。24-48時間で退院可能なほど回復が早いのが特徴です。
通常のデスクワークであれば1週間、運動、長期の旅行は2週経てば大丈夫です。
ほとんどの症例でUAE前にあった過多月経、月経痛、貧血、圧迫症状から開放されます。